「こうなったらいいな」は自分で実現。農業の未来をうつす野菜農家小島希世子さん

新しい生き方に取り組む人々

「新しい生き方」に取り組む人たちにフォーカスするインタビュー。第2弾は野菜農家でありながら、ホームレスの就農支援を行う「えと菜園」代表取締役の小島希世子(おじまきよこ)さんです。社会的な潮流の中で、農業の価値が大きく変化していると感じている岩崎が、小島さんの自然農法に興味を持ち、お会いしにいきました。

第1弾のインタビュー、姿勢矯正師田中京子さんは「整体の既存の考え方はおかしい」という想いをご自身の原動力としていました。

一方今回お話を伺った小島さんは、アフリカの飢餓や、目の前で困っている人の問題を自分ごととして考える力が原動力となっています。インタビュー中の「人助けというよりも、自分が嫌だから、自分のために行動をしている」という言葉からわかるように、自分の気持ちにストレートに従う小島さん。このインタビューから、世の中の「生きづらさ」を感じている方々へのヒントになればと思います。

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小島希世子(おじま きよこ)

野菜農家。株式会社えと菜園代表取締役・NPO農スクール代表理事。1978年熊本県生まれ・熊本高校・慶應義塾大学卒。神奈川県藤沢市にて、体験農園・貸し農園「コトモファーム」を運営。また、熊本県から農家直送の通販サイト「えと菜園オンラインショップ」の運営などを行っている。自治体の就労支援の現場でのプログラム、認定農キャリアトレーナー育成プログラム、農作業を活用した新入社員研修プログラムなどの開発・提供を行う。家庭菜園を学ぶための講座の監修、農起業系のスクールでのカリキュラム構築なども手掛ける。大学やビジネススクールなどでもゲスト講師を務めている。内閣府地域社会雇用創造事業・第1回社会起業プランコンテスト最優秀賞受賞、横浜ビジネスグランプリ2011ソーシャル部門最優秀賞受賞、農林水産大臣奨励賞受賞(第31回人間力大賞・2017年)。TVや雑誌等のメディアにも出演多数

 

小島さんは、飢餓をなくしたいという思いをもとに、大きく分けて3つの取り組みをされています。

・「えと菜園オンラインショップ

 熊本県から農家直送の通販サイト

・「体験農園コトモファーム」 

無農薬の野菜を現役農家指導のもとでつくることができる貸し農園の運営

・「NPO法人 農スクール

働きたくても働けない、ホームレスや生活保護自給者、ひきこもり、ニートの方たちと農家をつなぐ就農支援プロジェクト。

 

インタビュアーは岩崎夏海でお送りします。

岩崎夏海(いわさき なつみ)

作家。
1968年生まれ。東京都日野市出身。
東京芸術大学建築科卒。 大学卒業後、作詞家の秋元康氏に師事。
放送作家として『とんねるずのみなさんのおかげです』『ダウンタウンのごっつええ感じ』等、テレビ番組の制作に参加。
その後、アイドルグループAKB48のプロデュースにも携わる。
2009年、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの「マネジメント」を読んだら』を著す。
2015年、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『イノベーションと企業家精神』を読んだら』 。
他、著作多数。
有料メルマガ「ハックルベリーに会いに行く」(http://ch.nicovideo.jp/channel/huckleberry)にてコラムを連載中。

 

未来の職業としての「農業」

岩崎夏海(以下 岩):これからの人々の生活を考えたときに、仕事に割く時間はますます減るといわれています。人々が1時間や2時間しか働かない世の中が来るかもしれない。もっといえば、ベーシックインカムの世界にならざるを得ないとも思っています。そういったときに、人は暇だと生きてはいけないですよね? 多くの人々は、お金ではなく、生きるために生産的なことをしたいという気持ちになると思います。自分で野菜をつくって「食べる」、というだけの目的ではなく、時間を有意義に使うために、農業をする人々が更に増えるんじゃないかなと。小島さんがやられているような農業というのは、未来の職業だと感じています。

小島希世子:(以下 小):未来の職業ですか? 嬉しいです。

岩:小島さんは、自然農法といわれている、虫や雑草など自然のものを排除せず、農薬も肥料も使わない方法で、野菜を育てていらっしゃいます。このメソッドを習いたいという人がますます増えるんじゃないかというのが、僕の予想です。野菜を育てることだけではなく、新しいライフスタイルを提供される方としてお話をお聞きしたいと、本日は伺いました。小島さんは農業はどういったきっかけではじめられましたか?

小:もともと農業に興味をもった時期は、小学校に入る前です。私は熊本県の農村地帯出身で、両隣も向かいの家も農家でした。同級生の家に遊びにいくとお父さんのつくったおにぎりがおやつにでるんです。うちは両親とも学校の教師なので、乗用車は1台しかないし、農機具もない。でも友達の家にいくと、かっこいいトラックがあって、お父さんのつくった作物がごはんにでて、かっこいいなって思ったんです。単純ですよね(笑)。それで農業に興味を持つようになりました。

岩:小さいころから農家に憧れていたんですね。

小:はい。更に農家になりたいと思ったきっかけは、小学校の低学年のときに観たNHKのドキュメンタリー番組です。内容は、アフリカのこどもたちが食べ物がなくて、栄養失調で死んでしまう話です。それがすごくショックで。お腹がすいた状態が続くなんてこと、日本では考えられないので、すごく衝撃的でした。その日の帰り道、自分の周りを見渡すと、田んぼ、畑、柿の木など、食べ物に囲まれているんですね。母に、そういうものを貧困の国に送れないだろうかという話をしたら、その国に着く頃には腐ってしまうと言われて、将来現地で農作物を作ったらいいんじゃないかというアドバイスをもらいました。それでつくる人になろうと決めました。

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岩:じゃあ本当に小さい頃から強い意志を持っていらっしゃったんですね。

小:そうですね。とにかくお腹が空きすぎて、それを通り越して死んじゃうということが衝撃的でした。今でも、餓死に対する気持ちは変わらないです。

岩:それからどうやって農業の道に進まれましたか?

小:農業をやるから体を鍛えなきゃということで、小学校で剣道、中学、高校で柔道をやっていました。そして、不作の地で食べ物をつくるための、バイオテクノロジーが勉強できる農学部を受験したんですね。京都大学を受験しましたが、失敗して、一浪して、また受験しました。それがうまくいかず、予備校の先生が、農学部に執着しなくても、食料問題や国際協力が学べる学部が関東に新しくできたといわれて、SFC(慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス)に入学しました。入学して再分配の問題について学んでいくと、色々なことがわかりました。例えば発展途上国の支援といいながら、実は先進国から資材、農薬、化学肥料を買わないとつくれない仕組みや、食料が余っているのに、政治的な要因で分配が行き届いてないということなどです。あとは、関東に出てきて、初めてホームレスの方を目の当たりにして。食料が行き届いていないところがまだ国内にもあるんだ、日本でやることもあるなという思いも持ちました。

岩:人助けをしたいと思ったんですね。

小:うーん、人助けということをあまり意識したことはなく、自分が嫌だからなんですよね。支援というよりも自分のためですね。

 

制度にはまらない人たちが世の中と再びつながれるようにしたい。農スクールでホームレスが社会復帰

岩:大学で勉強されていたことをお聞きすると、自分でつくるというよりは、指導的な立場や、政治的方向に働きかけることも選択肢にあったと思います。それでも自分で手を動かして農作物をつくるということを選択されたのはなぜですか?

小:結局のところ、制度という枠組みを、上からどんとおろしてやった結果、その制度にはまらない、狭間の人が出てくるわけですよね。そういう人たちが食料難になるわけです。大きな枠組みをつくるというやり方があまり好きじゃない……というか、草の根運動が好きなんですね。だから遠くの何十万人が救えなくても、1人でも5人でもいいから隣にいる人を救えたらいいなという考え方です。また、私の活動を本(『農で輝く!ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園』河出書房新社)などで伝えて、真似する人が増えれば、枠組みをおろすことよりも、その場その場で考えが行き渡るのではないかなと。制度があるからではなく、人の内側から湧き上がる気持ちで動いた方が、状況は変わっていくんじゃないかなと。でも単純に現場主義のやり方が好きだというのが大きいです。

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岩:日本は人口が増え続けるだろうという想定のもとに、政治や制度、インフラなどつくってきましたが、急激な人口減少に歯止めがかからないという状況があると思います。ITの発達という影響もありますが、農業を巡る環境というのは、すごく変わってきています。大昔は農家は貧乏でしいたげられたときもありました。しかし現代は高齢化や後継者不足など複雑な問題が絡み合ってくる中で、産業として再注目されるのではないかと。生産システムの効率化がこのまま進めば、人はやがてすることがなくなるので、食べ物に関心が向かいます。食べることぐらいしか楽しみがないような大金持ちがたくさん出てくるんですね。お金持ちの人が高価な野菜を食べ、お金がない人は、大量生産された安価な野菜を食べ、どちらをお客さんとするか、二極化が農家の世界でも進んでいるように感じます。

小:そうですね。

岩:小島さんの作っているものは、手間暇かけているぶん、値段も自ずと高くなります。そうなると、お金持ち向けの野菜になりますよね。お客さんが小島さんの救いたい貧困層ではないという状況があると思ったんですが、そういった点はどのように捉えていますか?

小:そうですね。たしかにわたしたちのつくる野菜は、農薬化学肥料に頼らないという付加価値があるので、経済的に豊かな方が買ってくださる仕組みになっています。一方わたしたちの取り組みとして、「NPO法人 農スクール」というものを行っています。働きたいけど仕事がないホームレスの方や、生活保護の方、ひきこもりの方と、人手不足の農業界をつなぐ取り組みです。実際に農スクール出身で、就農者になられた方もいらっしゃいます。この活動に支持をしてくれた人が野菜を買って、そのお金が原資となって社会的な活動ができる。税金みたいに国が分配を決めるわけではない、シンプルな形がけっこう好きです。また好みの問題になってしまうのですが(笑)

岩:なるほど。ある種経済の再分配の機能も持っているんですね。

小:そうですね……というとおこがましいけど(笑)。小さい世界でなんとかやってます。

岩:いえいえ。それは素晴らしいことだと思います。それでしたら、逆に小島さんの野菜をもっと高くするのはどうでしょう(笑)。税金ではなく、直接お客さんからもらった資金を小島さんが社会事業として有意義につかうことは、いい意味でのトリクルダウンになるかと思います。

 

国からの補助金が受けられない理由とは?

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岩:農スクールでは具体的にはどういうことをされるんですか?

小:農スクールでは1日2時間、週1回の農業体験を春に3ヶ月、夏に3ヶ月行うカリキュラムです。農業の基礎的なスキルを学んでもらいます。その後の目標は就農。熊本の農家などと連携しています。また、農スクールの講師をしてもらうこともあります。

岩:社会的意義の高い取り組みと思ったのですが、国からの補助金などもでているのでしょうか?

小:実はうちのNPO法人は補助金を受けられないんです。というのも、今の行政の予算は縦割りなんですね。例えばホームレス支援は、ホームレス支援の予算、生活保護は生活保護の予算。そのため、色々な背景を持つ方を集めて、一緒の現場で働いてもらうと、不正受給になってしまうのです。さまざまな立場の方が集まり、お互い違うバックグラウンドや価値観を持った人が触れ合うことで、一歩踏み出すということも、多いと思うのですが……。

岩:むしろわけるほうが、弊害が大きいですよね。

小:はい。だからといって、国の援助を受けるために、自分の考えを変えるのは本末転倒ですよね。あくまで目的を達するための原資ですからね。

岩:わかります。僕も以前お金を寄付したことがありますが、それが本当に社会貢献なのかなと思ったときに、そこまで貢献になっていないのではないかと思ったんです。お金は使い方が大事なので、行政に任せていると、下手な使い方をされてしまう。無駄金になってしまうのを強く感じました。それこそ自分で何かサービスをつくることによって、社会に還元したほうがいいんじゃないかと。草の根運動の方が効果が高いと強く感じますね。

小:やはり一人一人の自分の心から湧き上がるものでしか、立ち上がっていけないので、枠組みに収まることに慣れることは危ないのかなと思います。

 

虫と草と協力する、自然農業という方法

岩:農業が今産業として再注目されているというのはお感じになりますか?

小:そうですね。

岩:世界の大都市、例えばサンフランシスコやNYなど、ここ10年程で、高級レストランの単価が約3倍から5倍に上がったといわれています。それに伴って、食材の値段も上がっていて、付加価値の高い野菜をつくる農家さんも増えているそうです。そういった農業の新しいビジネスの潮流が生まれてきています。小島さんがつくられている肥料も農薬もいらない野菜は、付加価値が高いので、高級レストランや海外からのお誘いもあるんじゃないかなと思うんですが、そういった流れはいかがですか?

小: そうですね。わたしたちは、「えと菜園」という16件の熊本の農家さんと一緒に、農家直送のオンラインショップをやっているんですが、そちらはそういったお客様も買い支えてくださっています。こういったオーガニック認証をとった皮ごとしぼりこんだみかんジュースなどを販売しています。

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岩:この沈殿量は初めて見ました!

小:農薬をつかっていないみかんを農家さんがしぼっています。

岩:小島さんの畑では無農薬、無肥料で野菜を育てていますよね。小島さんの栽培の大きな特徴は、雑草や虫を敵と認定するのではなく共存していく方法です。しかしそれを実現するのにはかなり難しいテクニックが必要ではないかと思うんです。虫食いも少しくらいなら気にしないと仰っていましたが、あまりにも虫食いされると野菜はだめになってしまう。そういった見極めはどうされていますか?

小:そもそもたくさんの虫食いをされないんですね。同じ野菜を一つのところに詰め込んでつくるから、虫がくることになるんです。実際の自然界はさまざまな野菜が共存していますよね? そのため、まんべんなくさまざまな種類の野菜を植えれば問題ないです。

岩:畑の中で自然のバランスを保っているわけですね。そもそも野菜は人間がいなくても生きていたわけですからね。虫と共存していた。

小:はい。しかし今は人間だけが大事で、虫は敵という考え方になっています。それがさまざまな弊害を生んでいるのではないかなと思っています。例えば野菜をつくるときに、人間のために、決められた量を期日までにつくるということを求めた結果、不確定要素を減らそうとしてしまうんです。さまざまないきものがいることや、気候変動があると、予想できなくなりますからね。そこで農薬で、一回土の中のいきものを殺してしまう。しかしそうすると、本来いきものたちがそこで生命活動をして人生を終えて、土に戻って栄養になる分が減ることになります。だから化学肥料をいれないといけなる。もちろんそれで最初は生産性や再現性も高くていいですが、なぜかそれを続けると、だんだんうまくできなくなるんです。それがいわゆる砂漠化といわれているんですが。

岩:人間がコントロールしようとした結果、かえってコントロールしきれなくなってしまう。

小:はい。農業は歴史を辿ると、どこかで人間界と自然界がわけられてきてしまったと思うんですよね。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は キャベツ-1-1024x684.jpg です体験農園コトモファームの野菜たち。虫に少しくらいたべられても平気です。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は ブロッコリー-2-1024x684.jpg です大きく育ったブロッコリー

農業の流通の仕組みを考える

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岩:小島さんのご著書『ホームレス農園』にも書かれていましたが、農業流通というものも考えさせられる点が多いですよね。

※現在は新刊『農で輝く!ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園』(河出書房新書)も発売中

小:そうですね。さまざまな問題があって、例えば既存の流通は不特定多数の生産者から一同に農協に集めて、スーパーや卸に分配するので、生産者と消費者の距離が遠く、顔が見えないということがあります。また、生産者が値段を決めることが出来ないので、需要と供給のバランスの神の見えざる手で値段がきまってしまうわけですよね。安かったり相場に左右されたりします。この資本主義社会で、価格のせめぎ合いが起きると、つくる側に限界がきてしまうのではないかと思っています。そういうこともあって、直接生産者と消費者を繋ぐオンラインショップ「えと菜園」を行っています。

岩:売り上げとして、手応えはいかがですか?

小:そうですね。うちは全部年輪型というか、じわじわ増えていく感じです。

岩:なるほど。やられていること一つ一つが、全て未来の種まきのように感じますがいかがですか?

小:自分や社会の未来がこうなるといいなということに対して、種を仕込んで、サービスをつくっていますね。時流にのっているからとか、利益になるからといった基準ではあまり動いていないですね。だから伸びないのかもしれない(笑)

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岩:いやいや、僕は小島さんのやられたことはすごく価値が高いと思っていて。それは一つには今の世の中は混沌としていて、これからどういう世の中になっていくかというのをみんなすごく考えているんですね。そういったなかで小島さんの行っている肥料や農薬も使わない農業というのは、未来の人々のライフスタイルといえると思います。

小:恐れ多いです……ありがとうございます。

 

小島さんの「好き」「嫌い」

岩:先ほどから小島さんは、自分の中の好きか嫌いで判断されることが多いと感じますが、それは直感的なものなんですか?

小:そうですね……、色々考えてはいるんですが、でも最終的には直感です。

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岩:直感はどのように得ているんですか? 物事を決めるときはどういうときかなと。一人でなのか、誰かと話してなのか?

小:畑や自然の中にいるときが多いですね。ブレストして考えを生み出すというよりは、うちにこもって掘り下げていく性格です。

岩:そのときにインスピレーションが浮かぶんですね。例えば、ネット通販はどういったときに?

小:ネット通販を思いついたのは、農家さんの声を聞いていたことが大きいです。とある農家さんが、自分の旦那はすごくおいしいお米をつくっているのに、農協に出したらまずい米とも同じ値段で出されてしまうという声を聞いたんですね。あとは、つくったものはどこの誰が食べているかわからないですよね。そういった声が聞こえてこない世界で、作り続けることができなければ、農家にはなれないよというふうに言われたこともあって。その経験から、それらのことを解決することをやればいいじゃないかと。生産者とお客さんを直接繋げば、生産者のこだわりがお客さんに伝わるし、お客さんの感想も生産者に伝わります。

岩:それを他の誰かがやればいいじゃなくて、ご自身でやろうと思ったというのは何か理由がありますか?

小:こうなったらいいなと思ったら、自分がやるのが普通かなと。自分がやらなきゃ進まないと思ってるので。

岩:面倒くさいという気持ちはないんですか?

小:やりたいので、やらざるをえないというか。やらなきゃいけないというより、やりたいという考え方ですね。だから面倒くさいというのはないです。

岩:いろんなことを自分ごととして考えていらっしゃいますよね。昔から常にそういう気持を持っていらっしゃいますか?

小:そうですね。ただ農業しか解決する手段を持っていないので、自分の持ち札でトライできることは、やりたいなと。

岩:すでに実業家でもいらっしゃるし、社会福祉事業もされています。ネットビジネスもされていますし、農業だけじゃなく多岐に渡っているようにお見受けします。

小:そうですね。しかし、いろいろやっている様に見えるかもしれませんが、行っていることは一つで、餓死があるとよくないという初心に繋がっています。でも明日解決できる問題ではないわけですよね。野菜を自分でつくる人が増えて、調達できれば再分配に振り回されず、食べていけるとか、政府を頼るんじゃなくて、直接支えてくれる仲間をつくって生きていく。たとえば通販や、貸し農園のスタイルが拡張していけば、もしかすると餓死が解決に繋がるかもしれないと。色々やっているようにみえるかもしれないけど、あくまでツールの違いで、自分の中でやってることは一つだと思っています。

 

農業を通じて自分の自信を取り戻す

岩:小島さんは、なぜ自分の「やりたいこと」をみつけて、「好き」という気持ちに正直でいられるんですか?

小:やりたいことが多くて困ってるんです(笑)

岩:それは見習いたい(笑)

小:おそらく、幼少期から何かをやりたいっていったら、親は必ず応援してくれたんですね。バカなことをとか、夢物語を、とかそういう言葉をあまり浴びせられなかった。それで恥ずかしい話なんですけど、農業をやるために、体を鍛えないとと思い、中学生のときに柔道を始めたんですよ。始めたばかりのときは、実力が市内大会止まりでしたが、高校に入ったら県の大会で通用するようになって。そのとき、「市から県のレベルに上がったから、次はオリンピックじゃない?」って(笑)。なんて単純。それでオリンピックに行きたいって話をしたときに、普通だったら「何言ってるの?」となりますよね。でもコーチが「お前ならいける」って(笑)。それでもっと馬鹿なのが、父親も「うん、希世子ならいけるよ」って。だから周りがシラーっとなってても、恥ずかしげも無くやりたいことを言える性格になってしまって……。

岩:否定しない育て方って大事ですね。

小:それでだいぶ後になって、練習で、有名選手とあたったことがあったんですけど、秒殺をされて。あ、勘違いだったんだって。気づくのに十何年かかりました。恥ずかしい(笑)

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岩:いやいやいや。そうですか。素晴らしいですね。

小:だからやりたいと思ったときに、誰かしら一人でもいいから、できるって言ってくれると、その声だけが、心の支えとなり、ダメだって言われたら、「そう考える人もいるよね」、ぐらいにしか受け止めない。もしかしたら、みんな本当はやりたいことがあるけど、「あなたならできる」という一人の声が聞こえないために、頭の中でセーブしたり、なかったことにしている方もいるのかもしれません。農スクールは引きこもりの方や生活保護の方がいらっしゃるんですけど、ご本人の力でできることでも、できないと思い込んでいることも少なくないんですね。だからやりたいことを口に出せない。本当にやりたいことは、昔は湧き上がってきていたはずなのに、その感覚が失われてしまう。

岩:泉が枯れてしまうというか。

小:そうですね。本来やりたいことは、たくさんあるのではないかなと。

岩:まさにニートの方などは、泉が枯れている状態だと思いますが、そういう方たちが農作業していると、力が湧いてくるものですか?

小:そうですね。野菜というのは、種をまいたら育ちますよね? 小さいトマトの種が、成長して実を何個もボコボコつける。一回種まきから収穫を体験すると、誰しも自分もできるんだと自信になります。あとは、農スクールの環境として、傷つける人がいないです。褒める人はいるけど、無理とかダメという言葉を使う人はいない。どんな発言も聞くという空気感が、やりたいことを言っていいという気持ちにさせます。あとは、虫や生き物が畑にはいっぱいいるので、それを見ていると、ただ生きていれば、それでいいんだという気持ちになれる。農作業をすると、自信を取り戻せるんです。

岩:なるほど。すごく説得力があります。引きこもりの方など、どういうきっかっけでみなさん農スクールにいらっしゃるんですか?

小:自分でネットでみつけていらっしゃる方が多いです。

岩:小島さんのところに助けを求めてきたということですね。

小:そうかもしれません。親御さんが応募するというケースは少なくて、ご本人が連絡してくれます。でもそれは珍しいことのようで、行政にも驚かれます。なんでうちに問い合わせしようと思ってくれたのか聞いたら、怒られなさそうと感じたと仰っていました。また、もともと農業したいと思っていた方が、普通のところだと、敷居が高いけど、ここだと受け入れてくれる体制が整っているからという声もありましたね。

岩:では農業に興味をもっていたという方も、それなりにいらっしゃるんですね。

小:そうですね。

岩:外に出て、土に触れて自然に癒やされるというのはいいことですよね。

小:はい! 体も動かすしますしね。

 

藤沢という最高の拠点

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は くまもと湘南館-1-1024x684.jpg です体験農園コトモファームのすぐ近くにあるくまもと湘南館。オーガニックの野菜が売られています。

岩:なぜ神奈川の藤沢市に拠点を置こうと思いましたか?

小:農地を探していたら、大学の先輩が地主さんを紹介してくれたという流れです。しかし実際に来てみると、すごくいい場所なんです。東京まで1時間ちょっとでいけますが、昔ながらの古き良き近所付き合いも残っていて、それでかつ、新しいことに挑戦する人を受け入れる土壌があるんです。なかなか日本中探しても他にないんじゃないかな。

岩:最高ですね。排他的な地域が多いイメージでしたが、こちらは違うんですね。

小:はい。一般的には、古き良き文化が残っていると、排他的なことも多いんですが、両方持ち合わせているんです。

岩:じゃあ風当たりもなく。

小:そうですね。それどころか、助けてくださって。本当に恵まれています。

岩:熊本で農家をやるということは考えなかったんですか?

小:仕事がない方は関東に多いので、熊本の農業とホームレスをつなぐためにこちらに拠点を置いています。実際に努力して熊本に就農された方もいらっしゃるんですよ。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は うりもの-1-1024x684.jpg ですくまもと湘南館で売られている野菜たち。

農業と共に生きることが多くの人を救う

岩:肥料も農薬も使わない農業をされていますが、この製法に関して、問い合わせが来たりしていますか?

小:そうですね。多少あります。

岩:実はもっと増えると僕は思っていて、小島さんのやり方で、農業に従事する人が本当に何万人というレベルで増加するのではないかと。

小:ありがとうございます。

岩:お金のためじゃなくて、健康に生きるということですよね。お金は、今の資本主義社会の中ではたくさん持っている人ほど稼げるような矛盾した状況になっている。でもうまく稼げない人たちが、農業で心のこもった野菜作りをしていると、生きていくことはできるし、健康にもなれる。混沌とした現代社会の中で、それは数少ない救いの道だと思うんですよね。小島さんは、それを一人という本当に小さなところから始められている。

小:そうですね。資本主義社会の中で、しっかり稼ぐ方は稼いでもらって、早くベーシックインカムが導入されるといいなと思っています。仕事ができるできないという言葉も、資本主義の軸の中だけの話で、その人の本来の価値基準じゃないと思うんですね。例えば読み書きできなくても、体力があればそこを活かせたり、人としゃべれなくても、牛舎だったら働けたり。自分が人生の主役として全うすることが大事だと思うので。そのときにベーシックインカムというベースがありつつ、自分の食べるものを自分でつくって。余ったものは誰かに分けてというような未来になっていくと、みんなが幸せになるのではないかなと思っています。その意味で農業は魅力的で、健やかに自分の人生を全うするという手段です。お金は入ってこないけど、自分のライフスタイルになりますよね。

この画像には alt 属性が指定されておらず、ファイル名は ベーシックインカム-1-1024x684.jpg です

岩:農業と共に生きるという生き方が、多くの人を救うと思っています。人口減少社会が問題になっていますが、むしろ人口が減少しない方が問題が大きいと思っています。つまり「人口が増えなきゃいけない」という考え方は、経済発展のためだけなんですよね。でもその現代資本主義の経済が発展したところで、今の問題は何一つ解決されない。物質的に豊かになるだけなんです。これ以上物質的に豊かになってもしょうがない。

小:そもそも資本主義自体が、人が幸せになるためにできた単なる道具だと思っています。すごい発明だとは思うけど、それを残しながらも、工夫を加えないともう限界だと思っています。

岩:ぼくもそう思います。そういう意味でも、小島さんがやられていることは、社会の中で、心地よく暮らしていくのに有効な手立てですよね。

小:今の社会に対するある意味メッセージだったり、解というか。これしか私には思いつかなかったんですよね。

岩:いやいや、誰も思いつかないというか、これが未来ですよ。

小:恐れ多いです。

岩:これをきっかけにまたお付き合いいただけると嬉しいです。

小:楽しかったです! 次は農業体験しにきてください。

 

今回は野菜農家の小島希世子さんにお話を伺いました。

実際お会いして感じたことは、小島さんの「やりたいことをやりとげるまっすぐな気持ち」と「行動力」が、周りの人に勇気を与えているということです。そして小島さん自身も、周りの人の力を信頼して頼りにしていらっしゃる。その循環関係が小島さん最大の魅力で、彼女の活動の原動力になっているのだなと感じました。

小島さんの活動に興味を持った方は是非ご著書もチェックしてみてください。

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農で輝く!ホームレスや引きこもりが人生を取り戻す奇跡の農園

ホームレス農園

(共に河出書房新社から出版)

 

(大塚 芙美恵)

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